現在、シンガポールにおいてはthe Betting Act 1960 (賭博法。以下「BA」)、 the Common Gaming Houses Act 1961 (普通賭博場法。以下「CGHA」)、the Private Lotteries Act 2011 (私営くじ法。以下「PLA」)、the Casino Control Act 2006 (カジノ管理法。以下「CCA」) 、the Remote Gambling Act 2014 (遠隔ギャンブル法。以下「RGA」)が賭博行為を網羅的に規制しております。しかし、テクノロジーの向上により賭博に関するプロダクトにこれまで以上にアクセスが容易となった一方で、新しいタイプのビジネスモデルによって賭博と賭博要素のあるゲームの区別が分かりにくくなりました。こうした賭博関連業界の進展に鑑み、Gambling Regulatory Authority of Singapore Bill (シンガポールギャンブル規制機構法案。以下「GRA 法案」)及びGambling Control Bill (ギャンブル管理法。以下「GC法案」)が2022年2月14日に議会にて審議されました。
現在のところ、賭博規制は以下の政府機関の監督下にあります。
GRA 法案と共に、2022年中頃、Gambling Regulatory Authority (ギャンブル規制機構。以下「GRA」)があらゆる形態の賭博行為を規制する唯一の規制当局として設置されます。技術的・世界的な傾向や、賭博プロダクトの新たな出現に対してこれまで以上に対応する目的のもと、上記の複数の政府機関が1つの規制当局へ統合されることにより、賭博に関する政策や懸念点に対する包括的で一貫的した対応が可能となります。
GC法案はあらゆる違法な賭博犯罪やカジノ以外の賭博の規制を規定するものとなっています。現在これらを規制する法令しているBA、CGHA、PLA、RGAは廃止されます。
GC法案は、技術的側面を問わず、かつ、既存のもののみならず新たな賭博プロダクトがいずれも対象となるように賭博の定義を修正します。これにより、GC法案に柔軟性を持たせ、先端技術を伴うような賭博プロダクトへのアクセス増加傾向や、賭博に関する要素を伴ったビジネスモデル出現について対応することになります。内務省(以下「MHA」)が規制の意向を有しないプロダクトは、他の規制管理下に置かれ、賭博の定義から除外されます。例えば、他の規制機関を通じシンガポール通貨金融庁(MAS)によって既に規制を受ける金融商品に対する投資活動は賭博行為の定義から除外されるものとなります。
家族間や友人間で行われるソーシャルギャンブルについては、現在の法律によって禁止されていないものの、明確な定義が定められていません。それゆえ、ソーシャルギャンブルはGC法案内で明示的に定義され、家族間や友人間で家庭内で行うものは例外的に合法になります。しかし、この例外規定はオンライン上のソーシャルギャンブルには適用されません。オンライン上では有効かつ十分にお互いに知り合いであるかの判断がつきにくいためです。
主要賭博商品に関するライセンス制度がGC法案によって導入されます。GC法案に準拠し、GRAが特定の種類の賭博行為、賭博要素のあるゲーム機器、賭博関連記事、賭博事業や賭博要素のあるゲーム又は宝くじの行為を運営する賭博業者に対してライセンスを付与することができるようになります。例えば、GRAはスロットマシンやSingapore Pools(公営くじ)関連のプロダクト、個人施設における賭博行為に対して、賭博運営ライセンスを発行することができるようになります。それゆえ、GRAは効果的に賭博業者が運営に責任を負うようにし、彼らが賭博プロダクトを適切に提供するようスクリーニングすることができます。
低リスクの賭博商品に対しては、クラスライセンスがGC法案によって導入されます。クラスライセンスは事業者に対して、低リスクの賭博に関するサービスを提供する権限をライセンス無しに特定の期間、条件付きで与えるものです。低リスクの賭博プロダクトを提供する運営業者は個別にライセンスを取得する必要がなくなります。例えば、小売業者によって販売されるミステリーボックスがS$100以下の賞金を提供する場合、クラスライセンスの対象となります。クラスライセンス制度の条件に関する詳細については、今後関連の規制機関の設立と共に発表される予定です。
GC法案は全ての違法な賭博行為に関して、オンラインか対面であろうと、一貫した3段階の罰則構成を採用し、既存のBA、 CGHA、 PLA 又はRGAが監督当局となります。階層化された罰則構成の下、最も厳しい罰則が運営業者に課され、順にエージェント、賭博への参加者へと科されます。これは有責性の程度に従ったもので、最も有責性の高い運営業者から課されるというものです。運営業者は最高7年の禁固刑及び最高$500,000の罰金、エージェントは最高5年の禁固刑及び最高$200,000の罰金、参加者は最高6か月及び/又は最高$10,000の罰金が科されます。
違法賭博に対する罰則が強化され、GC法案は、違法賭博行為を行ったエージェントや業者に対し強制の禁固刑を科すことも留意する必要があります。これは、禁止行為に関して強制の禁固刑を科していない既存のPLAや RGAと対照的です。繰り返し違法行為を行った者にはより重い罰則が科されます。
代理で行う賭博(プロキシ―賭博)とは、賭博場内の個人が、場外にいる意思決定者の指示のもと、賭博を行うものです。カジノ又はスロットマシン設置部屋で実行されるロキシ―賭博はGC法案の下、違法とされます。プロキシ―賭博を禁止する理由として、意思決定者が懸念のある個人を排除する為の入場規制を回避して参加することを防ぐためです。違法なプロキシー賭博の意思決定者には、最高S$10,000又は/及び最高12か月の禁固刑が科される場合があります。
現在、全ての賭博活動に適用される年齢制限は存在せず、合法的に賭博を行う最低年齢は賭博活動の開催地により異なります。例えば、Singapore Poolsでは4DやTOTOチケットの購入、競馬の賭けへの参加は18歳以上の者のみを対象としています。CCAの下では、カジノでの賭博は21歳以上としています。
GC 法案においては、未成年者のギャンブルが違法とされています。合法的に賭博行為を行うには、21歳以上である必要がありますが、最低年齢を18歳とするSingapore Poolsの店舗での賭博は例外となります。例え運営業者が合法的に運営していても、未成年者が賭博を行うことは犯罪となります。また、入場規制を設ける賭博の敷地に未成年者が立ち入ることも犯罪となります。
既存のCCAの下では、カジノ敷地内に出入りを禁止する、立入禁止命令を下すことができます。GC法案では、被害を最小限に抑える措置を拡大し、National Council on Problem Gambling (ギャンブル依存症対策審議会。以下「NCPG」)が、一般的な遠隔賭博やカジノ敷地外でのゲームマシンによる賭博行為について命令を下します。立入禁止命令を受けた者が、NCPGの立入禁止命令が適用される全ての賭博プラットフォームや場所において賭博を行ったり敷地に立ち入ることが違法となります。例えば、スロットマシンやSingapore Poolsでのオンラインゲーム等が対象となります。しかしながら、このような立入禁止命令違反のうち自主的に立ち退いた者については、GC法案の下では違法とみなされません。個人がカジノ等から自主的に立ち退いた場合にまで違法とすることを避ける狙いです。
未成年者または立入禁止命令下の者が賭博行為を行うこと、又はこれらの者が賭博敷地内に立ち入ることを許容する運営業者は、GRAのもとでは違法ないし処分対象となります。
これまで、賭博活動の広告と宣伝が違法とされる範囲は広く、RGAの下でのオンライン賭博の広告・宣伝や、BAとCGHAの下で違法とされる対面での賭博行為と比べても、違法になりやすくなっています。GC法案は、あらゆる種類の賭博の広告・宣伝の違法性について、一貫した取り扱いを定めます。違法なオンライン賭博の広告のように、実際の賭博行為の有無に関わらず違法となるため、違法な対面での賭博行為の広告・宣伝に関連する違法行為を摘発することが容易となります。
GRA 法案又はGC法案によって導入された法令草案は幅広く規定され、全ての賭博事業者に重大な影響を及ぼすものとなります。Social and Family Development省大臣のMasagos Zulkifli氏は「当省は、MHAによって行われた規制強化を強く支援し、未成年者等の脆弱なグループへの賭博被害を最小限にする」と述べています。カジノ運営業者や賭博要素を伴うオンラインゲームの運営業者はGRA法案とGC法案の議会可決について注視し、それが運営に与える影響を検討し、場合によっては、運営が課される条件及び制限措置に遵守するよう調整する必要があります。
【日本語版翻訳】デントンズ・ロダイク法律事務所 シンガポール国弁護士Ng Sook Zhen / ン・スジェン 日本国弁護士 Yasuhiko Tanabe / 田辺泰彦 (現在弊所に出向中) シニアリーガルエクゼクティブErika Hayashi / 林英里香
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