フレキシブルな勤務形態 - 雇用主のための次のステップ

最近発表された「フレキシブルな勤務形態の要請に関する三者ガイドライン」（以下「本ガイドライン」といいます）は、雇用主に対し、従業員からフレキシブルな勤務形態（flexible work arrangements。以下「FWA」といいます）の正式な申請がなされた場合に、合理的に実行可能な限りこれを検討することを求めるものであり、2024年12月1日から施行されます（以下「施行日」といいます）。申請できるFWAは、(i)フレキシブルな勤務場所、(ii)（総労働時間および業務量が変わらない範囲での）フレキシブルな労働時間、(iii)フレキシブルな業務量の3種類です。

これはシンガポールの雇用情勢における画期的な変化であり、今は容易に拒否できるFWAの申請も、近い将来、雇用主はこれを適切に検討しなければならなくなり、またそのような要請は、雇用主側に合理的なビジネス上の理由がない限り拒否することができなくなります。

FWAの申請が大量になされた場合に備え、またFWAに対応した社内の業務プロセスおよびシステムを整備するため、雇用主は、本ガイドラインの施行日前の早い段階で準備を進めておく必要があります。本稿では、雇用主が検討すべき次のステップについてご紹介します。

1. 業務プロセスの検討

社内の業務プロセスを見直し、FWAを導入できる役職と、FWAを導入できる範囲を早期に特定しましょう。例えば、ある特定の役職にフレックスタイム制を導入できる場合、雇用主は、時差出勤や圧縮労働時間制がその役職やチームにより適しているかどうかを検討すべきです。雇用主が今すぐ検討を始めるべき、組織に固有のまたは役職に固有の要素は数多くあります。

2. 従業員との取り組み

従業員からの将来のFWA申請をよりよく理解し予測するために、雇用主は、全社的なアンケートの実施や、従業員との1対1またはフォーカス・グループ・ディスカッションの実施を検討するとよいでしょう。雇用主はこのような話し合いを通じて、FWAと会社側のニーズとのバランスを取る必要性についても説明することができます。また、雇用主は、FWA制度への円滑な移行を促進するため、運用上の問題に早期に対処できるよう試験的スキームの実施を検討してもよいかもしれません。

3. FWAポリシーの策定

本ガイドラインの施行に向けて準備を整えておくため、雇用主は、施行日までにFWAのポリシーを完全に明確にしておく必要があります。そのため、FWAポリシーは施行日前に最終決定し、将来の従業員および既存の従業員に伝達すべきです。これにより、従業員は、雇用主がどのような申請を受け入れ、または受け入れることができないかについて、適切に予測することができます。

また、雇用主は、監督者や人事担当者に適切な研修を行い、FWAを実施する従業員を管理するスキルや、従業員に対して会社のFWAポリシーを説得的に説明するスキルを適切に身につけさせる必要があります。

4. 書式の準備

本ガイドラインでは、従業員が正式なFWA申請を提出するためのテンプレートや、雇用主が正式なFWA申請に回答するためのテンプレートなど、いくつかの標準的な書式が提供されています。雇用主は、これらのテンプレートを自社用にに調整するとよいでしょう。例えば、FWAの申請書には、フレックスタイム制の種類（時差勤務や圧縮勤務など）、一定の成果に関する従業員の提案、説明責任・業務品質・タイムラインの基準に関する注意事項など、具体的事項の詳細を記載することができます。チーム用の申請テンプレートを用意して、FWA導入後に（個人ではなく）チーム全体として従前と同様の業務量をこなすためどのように整理をするかを説明できるようにする余地もあるかもしれません（例：チーム単位でのフレックスタイム制の申請において、メンバーのAさんはこの時間をカバーし、Bさんはこの時間をカバーする、と記載するなど）。

5. 既存の契約を修正する必要性の検討

FWA制度の導入は、多くの場合、従業員の雇用契約条件の変更を意味します。例えば、在宅勤務の導入は、従業員の勤務場所をオフィスのみと定めていた労働条件を変更することになります。雇用主は、新たな契約書（例：この場合は在宅勤務契約）を作成すべきか、元の雇用契約書に追記すべきかを検討する必要があります。

上記の各ステップは、本ガイドラインの施行日までに雇用主が着手すべき作業のほんの一例に過ぎません。早めに準備をすればするほど、2024年12月1日以降の新しい状況を乗り切るために備えることができます。