決済サービスプロバイダーのライセンスに関するガイドラインの改正について

はじめに

2024年7月26日、シンガポール金融管理局（MAS）は、決済サービスプロバイダーのライセンスに関するガイドライン[PS-GO1]（本ガイドライン）の改正を発表しました。2024年8月26日に発効するこの改正は、追加のライセンス申請要件及び従事規則を導入し、また2024年4月19日に公表された「決済サービス法に関するFAQ」の変更に合わせた改正も含んでおり、さらに、決済サービスプロバイダーに関する従来の資格基準及び申請手続をより明確化したものになります。本稿では、本ガイドラインに加えられた主な変更点をご紹介します。

本ガイドラインの主な変更点

1. 許可基準の明確化

申請者の許可基準について、以下の点が明確化されました。

1. 適正基準を満たすにあたり、申請者は、関連する人物がMASの基準を満たすだけの適性を有していることを確認する義務があります。MASは、公正・誠実さ、評判、能力、財務の健全性以外に、利益相反の有無や、関連する人物のシンガポール法人に対する時間的なコミットメントなどの他の要素も考慮します。
2. 主要な個人の能力に関する基準が明確になり、決済/金融サービス業界における十分な経験を有するだけでなく、シンガポールの決済サービスプロバイダーに対する規制枠組みを十分に理解していることも必要になりました。
3. 基本資本要件が申請者に適用される場合について、本ガイドラインは、申請者がかかる基本資本要件を満たすためには、申請者がその要件をどのようにして継続的に満たしていくかを明確に示さなければならないことを明らかにしました。また、企業の基本資本は、申請者の業務費・運営費の少なくとも6～12ヶ月分をカバーできるものでなければなりません。申請者は、定期的な報告を行う、最低資本要件を上回る一定の資本バッファーを設けるなどして、常に基本資本要件を充足できるように効果的なモニタリングプロセスを備えておく必要があります。
4. 本ガイドラインは、コンプライアンス体制に関するMASの考慮事項について、コンプライアンス体制が効果的であるかどうかだけでなく、コンプライアンス・リソースの適切性も考慮することを明らかにしました。通常、申請者は、その持株会社や関連会社の適切な監督によるコンプライアンス支援を通じて、この基準を満たすことができますが、その一方で、MASは、デジタルペイメントトークン（DPT）のサービスを行う申請者については、その事業の高いリスクと複雑さに鑑みて、社内に現地のコンプライアンス担当者を置く必要があるとの期待を明らかにしました。また、コンプライアンスやマネーロンダリング/テロ資金供与防止に関する問題を監督するための適切なガバナンス構造を導入することや、申請者が事業活動に関連して直面するコンプライアンスやマネーロンダリング/テロ資金供与のリスク、及び申請者がそのようなリスクを効果的に管理するために講じた措置について、上級管理職やコンプライアンス担当者が十分に理解していることを証明することなどの基準も明確化されました。

2. 新規申請及び変更申請に関する新たな法律意見書要件の導入

標準決済機関（SPI）ライセンス又は大規模決済機関（MPI）ライセンスの新規申請者、及び既存のライセンスを変更してDPTサービスの追加を申請しようとする者は、場合に応じて、新規申請又は変更申請とともに法律意見書を提出することが求められます。それぞれのケースにおいて、法律意見書は以下の要件を満たす必要があります。

1. シンガポールにおいて、2019年決済サービス法に関する助言を行った実績を有する法律事務所により作成されていること
2. 申請者のビジネスモデルの明確かつ簡潔な要約を含むこと
3. 申請者の提案するサービス及び／又は製品が、2019年決済サービス法に基づき規制される決済サービスに該当するかの評価、及び、関連する法令上の例外事項／除外事項が適用される場合にはその詳細な説明を含むこと

また、MASは、正当な理由がある場合（例えば、申請が複雑なビジネスモデルを含む場合）、他の申請者にも法律意見書の提出を求めることができます。どのような場合においても、MASは、最初の法律意見書が不明瞭な場合には、2通目の法律意見書の提出を求める権利を留保しています。

3. 新規ライセンス申請に対する外部監査人の独立評価要件の導入

DPTサービスを提供しようとする新規申請者（2021年決済サービス（改正）法の2024年（経過規定）規則に従ってMASに通知した事業体を除く）、及び既存のライセンスを変更してDPTサービスを追加しようとする者は、独立した外部監査人を任命して、マネーロンダリング/テロ資金供与対策（AMT/CFT）および消費者保護の分野におけるポリシー、手続き、統制について独立評価を行わせ、かつ、当該外部監査人の報告書を関連する提出書類に含めなければなりません。

申請者は、外部監査人が独立した評価を実施するための適切な資格を有することを保証する責任を負います。評価スコープと外部監査人の基準に関する詳細（独立性だけでなく、能力、資格、実績や、独立性に関する最低要件を含みます）は、本ガイドラインに詳述されています。外部監査人の独立評価報告書は、過去3ヶ月以内に作成・署名されたものを、申請者のライセンス申請書とともに提出しなければなりません。外部監査人が監査したポリシー、手続き及びその他の文書は、申請者が申請書の一部として提出したものと同じバージョンのものでなければならず、また、独立評価の間、外部監査人は申請者からの独立性を維持し、利益相反状況に陥らないようにしなければなりません。

申請者に任命された各外部監査人は、その連絡先、実績、関連する経験に関する情報を提出し、また、有すべき経験と専門知識にかかる最低要件を満たしている旨の宣誓書、および彼らが請け負った業務ステップを提出する必要があります。

MASは、外部監査人の独立評価の質または網羅性に懸念がある場合に、申請者に対し別の外部監査人を任命して独立評価を再度実施するよう要求する権利を留保しています。MASはまた、報告書の指摘事項について申請者と直接話し合うこともあります。

仮承認を受けた申請者は、その承認の条件として、資格のある独立した外部監査人を任命し、テクノロジーとサイバーセキュリティリスクの分野におけるポリシー、手続き、統制の独立した評価を実施するよう求められます。

また、本ガイドラインでは、2024年に新たに規制される事業活動を行っている事業体で、経過措置としてライセンス取得が免除されているものに対し、2025年1月4日までに、申請者の事業活動とAML/CFTおよび利用者保護の要件の遵守についての外部監査人による証明書を提出するようMASが要請することが強調されています。

4. 申請の審査プロセスに関するルール

本ガイドラインは、申請審査プロセスの様々な段階の全体像、関連するタイムライン、MASが申請者に期待する事項等を説明することで、申請の審査プロセスを明確にしています。

初回の審査プロセスにおいては、ケース・オフィサーが申請者に割り当てられる場合があり、そのケース・オフィサーは、初回の面談を含む次のステップについて申請者に連絡を取ります。ケース・オフィサーは、提出された書類一式を確認し、申請者に対する1回目の質問・情報提供の要請を準備します。審査の過程で、申請者は、その提出した回答が不十分な場合、複数回にわたって情報提供や説明の要請を受けることがあります。申請者は、情報提供の要請に都度対応し、適時に適切な回答を提供できるよう、常に担当者が対応可能な状態にしておくことが期待されます。申請者は、ケース・オフィサーに対し、積極的にかつ完全にすべての重要情報を包み隠さず適時に開示し、また、MASに提供した情報や文書が虚偽または誤解を招くものでないよう、合理的な注意を払う必要があります。MASが指定した期限内に回答しなかった場合は、申請の取り下げとみなされます。回答にさらなる時間を要する場合は、事前にケース・オフィサーにその旨を伝える必要があります。

初回の審査後、ケース・オフィサーは、申請者の主要な経営者及び／又はコンプライアンス・オフィサーとの面談を手配します。面談の目的は、申請者が、いかに規制要件を遵守しつつその事業及び事業に伴うリスクを管理していくかを説明することにあります。コンサルタントや、外部の法律顧問その他の第三者が面談に同席することは認められていません。

申請者は、申請段階においても、規制下にある金融機関であるかのように振る舞うことが期待されています。ケース・オフィサーは、このような期待に基づき申請を審査し、申請者の行為・振る舞いに重大な欠陥があれば、 その申請は却下される可能性があります。

申請は、以下の場合には保留されることがあります。すなわち、(a) 申請内容に重大または重要な変更があるために、申請者が当該申請を取り下げて、変更完了後に再度申請することを検討したい場合。また、(b) 審査プロセス中に、申請者が大規模な企業再編、主要経営陣の大幅な変更、またはビジネスモデル・事業活動の重大な変更を行う場合に、MASが審査の準備が不十分であると評価したときは、当該申請者の申請に対する審査は6か月間保留されます。これは、審査に割くリソースを再配分し、審査を受ける準備ができている他の申請者との公平性を確保するためです。

結論

本ガイドラインの改正は、ライセンス申請のプロセス及び要件について、より高い透明性を提供するものです。また、この改正には、ライセンス申請プロセスがMASと申請者の双方からみて迅速で効率的なものとなるように、申請者がより一層準備を万端にし、ライセンスの申請要件を遵守することを確保したいという意図も示されています。準備が整っていない申請者については、申請が保留され、さらには取下げを勧告されるリスクもあります。今後ライセンス申請を希望する事業者は、申請の準備が整っているかを判断するために、改正された本ガイドラインをよく理解しておく必要があります。同時に、ライセンス申請の審査中である申請者も、申請状況や追加資料の要否を確認する上で、本改正によって明らかになったMASの期待を考慮する必要があります。